糖尿病・代謝内科
人は日々の食事で栄養素を摂取し、それを生命の維持や、様々な活動をするためのエネルギーにしています。このように、栄養素をエネルギーに変換し、生体の活動を維持していくシステムを「代謝」といいます。体温調節や呼吸のほか、心臓を動かす、食べ物を消化・吸収する、細胞を新しく生まれ変わらせる、などなど、すべて代謝の働きによるものです。
この代謝機能がうまく働かなくなると、「代謝異常」と呼ばれる状態となります。糖代謝に異常をきたすと、血液中のブドウ糖濃度が上昇し、糖尿病を引き起こします。また、コレステロールや中性脂肪などの脂質代謝に異常をきたすと、脂質異常症を引き起こします。
糖尿病や脂質異常症のコントロールが不十分であると、動脈硬化の進行をもたらし、結果的に心筋梗塞や脳梗塞などの重篤な病気の要因となってしまいます。
その他、ナトリウムやカリウム、カルシウムなど電解質の代謝異常や、ビタミンに関する代謝異常などもあります。
当院では、糖尿病を中心に、肥満症、脂質異常症などの診療を行っています。これらは「生活習慣病」とも言われるものですが、その初期段階では自覚症状がほとんどないため、健康診断などで数値の異常を指摘されてもそのままにしてしまいがちです。しかし、放置すると目に見えないところで動脈硬化が進展し、重篤な病気を生じる危険が高まりますので、健康診断で気になる結果がありましたら、お早めにご相談ください。
糖尿病について
糖尿病はその個人によって成因や病状が異なり、糖尿病によって引き起こされる合併症も多岐にわたります。さらに現在、糖尿病に関する治療薬は有効なものが数多く開発されており、それらをどう組み合わせて使用していくかには、より専門的な知識と経験が必要になってきます。当院では、日本糖尿病学会認定の糖尿病専門医である院長が、患者さまひとりひとりの状況をしっかりと診断し、治療を行っていきます。
糖尿病の診断
糖尿病は、血液中のブドウ糖濃度(血糖値)が慢性的に上昇している状態(高血糖)が続く病気です。血液検査によって診断されますが、具体的な基準数値は以下の通りです。
- ①早朝空腹時血糖値が126mg/dL以上、もしくは75gOGTT(※)の2時間値が200mg/dL以上、
あるいは随時血糖値が200mg/dL以上の場合 - ②HbA1c(※※)値が6.5%以上の場合
①と②の両方が確認されると糖尿病と診断されます。また、①と②のどちらか一方のみが該当すると「糖尿病型」と判定、再検査となります。その結果、やはり①と②のどちらかのみ該当するという場合は、糖尿病と診断されます。
- ※75gOGTTとは、経口ブドウ糖負荷試験と呼ばれるもので、一定時間の絶食後、75gのブドウ糖が入った水を飲み、その後、時間を追って血液検査をして血中のブドウ糖濃度の推移を測る検査です。
- ※※HbA1cとは、ブドウ糖と結合したヘモグロビン(糖化ヘモグロビン)が血中にどのぐらいの割合で存在しているかを表したもので、過去1~2か月の血糖値を反映する指標となります。
糖尿病の原因
飲食物によって摂取された栄養はブドウ糖となり、細胞が活動するエネルギーとして、血液により全身に運ばれ、細胞に取り込まれます。その際に重要な役割を果たしているのが、膵臓で作られるインスリンというホルモンです。
糖が血液中に流れ込むと、膵臓からインスリンが分泌され、ブドウ糖をグリコーゲンというエネルギー源に変換したり、脂肪として蓄えられるようにしたりします。それにより、血糖値は一定に保たれます。このとき、インスリンの分泌量が少ない、あるいはインスリンの効き目が弱いと、糖が変換されずに血管内に溢れ、高血糖の状態が続くことになります。
1型糖尿病と2型糖尿病
糖尿病は、インスリンに問題が起きる原因によって、大きく2つに分けることができます。それが、「1型糖尿病」と「2型糖尿病」です。
1型糖尿病
1型糖尿病は、インスリンを作る膵臓のβ細胞が破壊され、膵臓からインスリンがほとんど分泌されなくなることで発症するもので、比較的若い世代で見られることが多いです。インスリンが分泌されなくなる原因としては、自己免疫や遺伝子要因などが考えられていますが、ウイルス感染なども発症に関与していると考えられています。
1型糖尿病において、インスリンの分泌が極端に低下すると、血液中のブドウ糖(血糖)が増加しても、筋肉や内臓組織などの細胞にエネルギーが供給されないため、異常なのどの渇き、多尿、全身のだるさなどがみられ、昏睡状態に至り命に関わる場合もある「糖尿病ケトアシドーシス」を発症するなど、非常に危険な状態になります。
治療としては、1型糖尿病の場合、インスリンをほとんど分泌できなくなっているため、継続的にインスリン製剤の注射を行っていくことになります。
2型糖尿病
2型糖尿病は、生活習慣病のひとつに数えられるもので、遺伝的要因のほか、食生活や運動習慣が大きく影響しています。肥満症(中でも内臓脂肪型肥満)も、病状の悪化に関与することが多いです。過食による糖分の過剰摂取、あるいは運動不足により糖があまり消費されない状態が続くと、恒常的に血糖値は高くなります。
それでも初期には膵臓が対応し、インスリンを分泌するのですが、やがて膵臓が疲れ切って対応できなくなり、インスリンの分泌量が低下していきます。また、肥満を合併すると、インスリンが十分にあっても糖を効率よく細胞内に取り込めなくなる傾向となり、これをインスリン抵抗性といいます。
日本ではおよそ6人に1人が糖尿病、あるいはその疑いがあると言われており、糖尿病全体の約9割が2型糖尿病とみられています。また、日本人は欧米人に比べてインスリンの分泌量が少ないことが指摘されており、肥満の合併がなくても糖尿病に罹る、「やせ型の糖尿病」が多いと考えられています。ストレスや睡眠不足、過度の飲酒、喫煙などの習慣も、インスリンの分泌低下に関与する場合があり、注意が必要です。
糖尿病の合併症
多くの場合、初期の糖尿病では自覚症状はほとんどありません。ただし、その状態を長く放置してしまうと、活性酸素の発生や、タンパク質の糖化が引き起こされ、血管の壁がダメージを受けていきます。すると、血管の内側に炎症を生じやすくなり、そこにコレステロールなどが付着することで、血管の径が狭くなっていきます。糖尿病では炎症や傷が治りにくい状態となっているため、これらの積み重ねにより、さらに血管の障害が大きくなるという悪循環に陥ります。このような状態が全身の血管で起こることで、様々な合併症が引き起こされていきます。
合併症には、太い血管が傷つくことによって起こる大血管症と、細い血管が傷つくことによって起こる細小血管症があります。大血管症は、糖尿病や高血圧症、脂質異常症などによって引き起こされる動脈硬化が原因となるもので、狭心症や心筋梗塞、脳梗塞、末梢動脈疾患などがあります。一方、細小血管症には以下にお示しする糖尿病の「3大合併症」といわれるものがあります。
- 糖尿病性網膜症
- 眼の網膜を走行する血管に障害が生じ、進行すると失明する危険性があります。
- 糖尿病性腎症
- 腎機能が低下すると、尿中に蛋白が出るようになります。腎不全に進行すると、老廃物を尿として体外に排出できなくなり、人工透析が必要になります。
- 糖尿病性神経障害
- 高血糖による神経細胞の変性や、動脈硬化による神経細胞への血流が滞ることで神経に障害が起こり、下肢切断や全身性の感染症などの原因となります。
糖尿病の治療
糖尿病治療の目標は、良好な血糖コントロールを長期間にわたって維持し、さらに、体重、血圧、脂質も良好にコントロールすることによって、3大合併症や動脈硬化症の発症・進展を阻止・抑制し、糖尿病をもたない健康者と同様の生活の質を保ち、寿命を全うさせることにあります。
糖尿病の治療として、食事療法、運動療法、薬物療法の3本柱が重要です。発症早期から長期の良好な血糖コントロールを目指すため、食事・運動療法を基本として、血糖コントロールが不十分であれば早期に薬物療法の開始を検討します。
1. 食事療法
生活習慣の改善として、まず食生活を見直す必要があります。食べ過ぎや飲み過ぎに注意し、バランスの良い食事を規則正しく摂取することで、肥満を予防・改善していき、血糖値が高くなる要因を除いていかなければなりません。清涼飲料水を取る習慣や、間食・夜食などは、血糖値を上げやすいので控えた方がよいでしょう。
2. 運動療法
次に、運動を行うことで、糖を細胞に取り込む過程をコントロールするインスリンが働きやすくなり、血糖値が上がりにくい体を作るとされています。肥満(特に内臓脂肪型の肥満)では、インスリンが十分に働かずに血糖値が高くなりやすいことがわかっています。一方、筋肉質の人ではインスリンが働きやすく、血糖値が上がりにくいといわれています。ウォーキングや体操、筋肉トレーニングなど、継続して行える運動を心がけ、筋肉を動かして体重を適切に保つことが重要です。
3. 薬物療法
薬物療法では、インスリン製剤を用いる治療と、インスリンではない薬による治療があります。
インスリン製剤による治療は、1型糖尿病では根幹をなす必須の治療となりますが、2型糖尿病でも選択肢の一つとして用いられます。1型糖尿病の場合は、基礎インスリン(1日を通して効果の長いインスリン)と追加インスリン(食事による血糖値の上昇を抑える超速効型のインスリン)を組み合わせて注射するbasal-bolus療法が基本となります。2型糖尿病では、basal-bolus療法を行うこともあれば、経口血糖降下薬に1日1回の基礎インスリンを上乗せして用いるbasal supported oral therapy(BOT)を行う場合もあります。
インスリン注射を行う場合、自己血糖測定(SMBG)を合わせて行うことが多いです。自ら血糖値を測定し、記録することは、インスリン量の調節に不可欠なものとなります。最近では、皮下に留置したセンサーで間質液中のグルコース濃度を連続的に測定し、リーダーでスキャンすることで連続測定したグルコース濃度の変動パターンを表示できる「FreeStyleリブレ」に代表される持続グルコース測定(CGM)の器機も広く普及してきており、糖尿病の血糖コントロールの改善に大きく寄与しています。
インスリン製剤以外の薬剤は、インスリン分泌を促すインスリン分泌促進系薬剤と、そうではないインスリン分泌非促進系薬剤に分けられます。インスリン分泌促進系薬剤には、副作用として低血糖を生じる危険がある薬剤もあります。可能な限り低血糖を起こさないことが理想的であり、これらの薬剤はできるだけ少ない量で慎重に使用する必要があります。
近年では、大規模臨床試験により、大血管症の発症を抑える効果がある薬剤として、SGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬などが注目されています。特に、SGLT2阻害薬は、血液中の余分な糖を尿中に排泄する薬剤ですが、心不全や慢性腎臓病への効果も示されており、適応が拡大しつつあります。
それぞれの薬剤には特徴的な作用、注意すべき副作用があり、服用(注射)回数や方法、薬価においてもそれぞれ異なります。安全性に配慮し、エビデンスに則った治療を重視しつつも、一人一人の患者さまの病態やライフスタイルに合わせて、無理なく継続できる薬物療法が大切と考えております。