内分泌内科
内分泌内科は、下垂体、甲状腺、副甲状腺、副腎などのホルモン分泌を行っている臓器に異常が起こる病気を診る診療科です。いわゆる内分泌疾患と呼ばれるもので、何らかの原因でホルモンのバランスが崩れることにより、様々な症状が現れるものです。高血圧症、糖尿病、脂質異常症や肥満症などの生活習慣病の中には、内分泌疾患が隠れていることもあります。
ホルモンは、体の様々な働きを調節している化学物質で、体の内外で環境の変化が生じても、体の働きが常に同じような状態であること(体内の恒常性)を保つ役割を果たしています。分泌されるホルモンの量は非常に精密に調節されており、多すぎても少なすぎても、体内の恒常性が損なわれるため、色々な症状・疾患が引き起こされてしまうのです。
甲状腺疾患について
甲状腺は、首の前方、男性で言えば「のどぼとけ」のすぐ下にある、重さわずか15~20gの小さな臓器で、蝶が羽を広げたような形をしています。女性の甲状腺は、男性よりもやや高い位置にありますが、どちらも気管を取り囲むように位置しています。
甲状腺の果たす主な役割は、新陳代謝や成長をコントロールする「甲状腺ホルモン」を分泌することです。新陳代謝とは、脂肪を燃焼させてエネルギーを作り出したり、古くなった細胞を新しいものに作り替えたりするなど、体の成長や機能の維持を行うことです。
甲状腺の病気は、
- (1)甲状腺全体が腫れるタイプ(バセドウ病、橋本病など)
- (2)甲状腺の一部が腫れるタイプ(亜急性甲状腺炎など)
- (3)甲状腺の一部に腫瘍(しこり) ができるタイプ(腫瘍性疾患(悪性・良性)など)
の3つに分けられます。
甲状腺疾患の症状に
ついて
甲状腺ホルモンは、身体機能に大きく関与しており、甲状腺の働きが強すぎると、新陳代謝が促進されすぎて身体は消耗傾向になります。逆に、甲状腺の働きが弱まると、新陳代謝が低下して身体機能も低下する傾向になります。現れる症状としては、以下のようなものがあります。
甲状腺ホルモンの分泌が過剰になると現れる症状例(甲状腺機能亢進症)
- 甲状腺が腫れる
- 暑がりになる
- よく汗をかくようになる
- 動悸が起こる
- 食欲は増すが、体重は減少する
- イライラして落ち着きがなくなる
- 手が震える
- 便が緩くなる
- 眼球が飛び出してくる
- 月経が減る
甲状腺ホルモンの分泌が異常に低下すると現れる症状例(甲状腺機能低下症)
- 甲状腺が腫れる
- 寒がりになる
- 皮膚が乾燥するようになる
- 脈拍が少なくなる(徐脈)
- 食欲は減るが、体重は増加する
- やる気がなくなり、眠気に襲われる
- 髪の毛が抜ける
- 貧血になる
- 便秘になる
- 月経が多くなる
主な甲状腺疾患について
バセドウ病
甲状腺機能亢進症の代表的な疾患で、甲状腺ホルモンが多く作られ過ぎることで、新陳代謝が異常に活発になってしまうことで引き起こされます。自己免疫疾患の一つで、女性が男性の約4倍と多く、30歳代での発症が多くなっています。甲状腺機能亢進症の様々な症状がみられ、頻脈から心房細動という不整脈に至ることもあり、注意が必要です。
亜急性甲状腺炎
バセドウ病と同様、甲状腺ホルモンが増加することによって引き起こされる病気で、ウイルス感染が関与していると考えられています。バセドウ病のように甲状腺ホルモンが多く作られるのではなく、甲状腺が炎症を起こして蓄えられている甲状腺ホルモンが血液中に漏れ出て起こるもので、破壊性甲状腺炎とも言われます。バセドウ病とは治療法が異なりますので、しっかりと診断する必要があります。
橋本病
甲状腺機能低下症の代表的な疾患で、やはり自己免疫疾患の一つです。免疫システムが甲状腺を攻撃することで甲状腺に炎症が起き、その働きが弱まることが原因と考えられています。その結果、甲状腺機能低下症の様々な症状が現れます。若年から40歳代以降まで、幅広い世代で発症がみられる病気ですが、女性が男性の約20倍と、圧倒的に女性の数が多くなっています。十分な治療ができない場合、流産や早産、子どもの成長や発達の遅れにもつながってしまいます。症状が強くなると、意識障害を起こすこともありますので、注意が必要です。
甲状腺腫瘍
甲状腺内に腫瘤ができている状態で、良性と悪性があります。良性のものとしては、濾胞腺腫、腺腫様甲状腺腫、嚢胞などが含まれます。悪性腫瘍(甲状腺がん)は、乳頭がん、濾胞がん、髄様がん、低分化がん、未分化がん、その他(悪性リンパ腫など)に分けられ、乳頭がんと濾胞がんは合わせて甲状腺分化がんと呼ばれます。
甲状腺に発生する腫瘍は、そのほとんどが良性のものです。まれに悪性腫瘍(がん)の場合もありますが、甲状腺がんの約9割は甲状腺乳頭がんで、他の臓器のものに比べて悪性度が低く、進行もゆっくりであることがわかっています。
また、プランマー病(甲状腺機能性結節)というものがありますが、これは、甲状腺に発生した腫瘍が甲状腺ホルモンを作り出すものです。それにより、甲状腺機能亢進状態になり、バセドウ病と同様の症状が出るようになります。治療としては、主に腫瘍を取り除く手術療法が行われます。
甲状腺の良性腫瘍に関しては、多くの場合、経過観察となります。ただし、腫瘍そのものが大きい、腫瘍の存在により呼吸困難や嚥下障害が引き起こされる場合には、腫瘍の摘除が検討されます。悪性腫瘍については、甲状腺摘出などの手術療法、放射線治療のほか、化学療法(抗がん剤)が行われます。その際には、他の部位に転移がないかどうかも調べ、それぞれの病態に合った治療を検討します。